新規肥満治療薬のゼップバウンド(チルセパチド)とは? event_note2025.01.01肥満治療の新たな選択肢:ゼップバウンドの効果と使用法肥満は、生活習慣病や心血管疾患など多くの健康リスクを引き起こす原因となる疾患です。 その治療には食事療法や運動療法が一般的ですが、近年では効果的な薬物療法も注目されています。 本記事では、肥満治療薬として12月27日に保険収載されたばかり、注目を集める「ゼップバウンド(Zepbound)」について、その効果や使用法、注意点を詳しく解説します。国内で使用可能な薬物療法としては、サノレックス(マジンドール)、ウゴービが有ります。今回新しくゼップバウンドが加わりました。 ゼップバウンドとは?ゼップバウンド(Zepbound)は、肥満治療薬の一つで、チルセパチドを主成分とするGIP/GLP-1受容体作動薬です。 GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は、血糖値を調整し食欲を抑制する働きを持つホルモンです。 ゼップバウンドは、体内のGIP/GLP-1受容体を活性化し、食欲を自然に抑えながら体重減少を促進します。ゼップバウンドは、もともと2型糖尿病の治療薬として開発されましたが、その体重減少効果が高いことから、肥満治療薬としても承認されています。 ゼップバウンドの適応ゼップバウンドは肥満症に適応が有りますが、以下の条件を満たす必要があります。 高血圧、脂質異常症又は2型糖尿病のいずれかを有し、 食事療法・運動療法を行っても十分な効果が得られず、以下に該当する場合に限る。 ・BMIが27kg/m2以上であり、2つ以上の肥満に関連する健康障害を有する ・BMIが35kg/m2以上肥満に関連する健康障害とは以下を指します(肥満症診療ガイドライン2016)・耐糖能障害(2型糖尿病・耐糖能異常など) ・脂質異常症 ・高血圧 ・高尿酸血症、痛風 ・冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症) ・脳梗塞、脳血栓症、一過性脳虚血発作(TIA) ・脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患、NAFLD) ・月経異常、不妊 ・睡眠時無呼吸症候群(SAS) ・運動器疾患:変形性関節症(膝、股関節)、変形性脊椎症、手指の変形性関節症 ・肥満関連腎臓病当院で得意としているMASH、MAFLDも脂肪肝に加え、上記の障害を複数有するとしているため、今回のゼップバウンドの適応拡大は肝臓内科医にとっても大きな影響が有ると考えます。 ゼップバウンドの作用メカニズムゼップバウンドは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)受容体とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)受容体にはたらくデュアルアゴニスト製剤です。・GIPとGLP-1の役割と効果 脳への作用 食欲を抑える効果:GIPとGLP-1の両方が作用し、食欲を自然に抑える効果があります。 満腹感を高める効果:特にGLP-1が強く働き、食事後の満腹感を長く感じられるようにします。全身への作用 インスリンの効き目を高める:GIPとGLP-1が全身のインスリン感受性を高め、血糖値のコントロールをサポートします。膵臓への作用 インスリン分泌を促す:GIPとGLP-1が膵臓の働きを助け、インスリンの分泌を促進します。 グルカゴン分泌の調整:GIPは血糖値を上げるグルカゴンを増やす一方、GLP-1は逆にその分泌を抑える働きがあります。胃への作用 胃の排出を遅らせる:GLP-1が胃の内容物の排出を抑えるため、満腹感を維持する効果があります。GIP、GLP-1は上記の作用を有します。 ゼップバウンドでは以下のようなメカニズムで肥満治療に効果を発揮します①食欲抑制 GLP-1受容体を活性化することで、満腹感を持続させ、食事の摂取量を自然に減少させます。②血糖値の安定化 インスリン分泌を促進し、食後の血糖値の急激な上昇を抑えます。この効果は、肥満関連の代謝異常の改善にも寄与します。➂エネルギー消費の促進 一部の研究では、ゼップバウンドが基礎代謝を向上させる可能性が示唆されています(文献1)。 ゼップバウンドの使用法と効果ゼップバウンドは皮下注射薬であり、週に1回の投与が推奨されています。臨床試験では、使用開始から3〜6か月で明確な体重減少効果が確認されています(文献2)。主な効果:・体重の減少(平均5〜10%の減少が報告されています) ・肥満関連疾患(高血圧や脂質異常症)の改善 ・長期的な生活の質(QOL)の向上 使用時の注意点ゼップバウンドを使用する際には、以下の点に注意が必要です:①副作用 最も一般的な副作用として、吐き気や嘔吐、便秘、下痢、腹痛、消化不良、食欲低下、注射部位の紅斑、そう痒感、疼痛、腫脹等が報告されています。これらは通常、治療を継続することや注射手技や注射部位の変更で軽減します。 また頻度は低いですが低血糖(頻度不明)、急性膵炎(0.1%未満)、胆嚢炎(頻度不明)、胆管炎(0.1%未満)、胆汁うっ滞性黄疸(頻度不明)、アナフィラキシー、血管性浮腫(頻度不明)の報告もされています。②禁忌 膵炎の既往歴がある方や、妊娠中の方は使用を控える必要があります。 膵炎に関しては同成分であるマンジャロの使用での死亡例の報告も海外ではされており、注意が必要です。 また、GLP-1受容体作動薬に対する過敏症がある場合も禁忌です。➂医師の指導下での使用 ゼップバウンドは強力な治療効果を持つ一方で、誤った使用は健康を損なうリスクを伴います。必ず医師の指導のもとで使用してください。 ゼップバウンドと生活習慣改善の併用ゼップバウンドは単独でも効果を発揮しますが、食事療法や運動療法と組み合わせることで、さらに効果を高めることができます。 健康的な生活習慣を取り入れることは、体重減少を維持するだけでなく、長期的な健康を保つためにも重要です。 マンジャロとの違い肥満治療薬「ゼップバウンド(Zepbound)」は、糖尿病治療薬「マンジャロ(Mounjaro)」と同一の有効成分であるチルゼパチド(tirzepatide)を含んでいますが、適応症が異なります。 マンジャロは2型糖尿病の治療を目的としており、ゼップバウンドは肥満症の治療に特化しています。 このため、ゼップバウンドは肥満患者の特有のニーズに応える形で処方されます。ゼップバウンドは、GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)とGIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)の両方の受容体に作用するデュアルアゴニストとして分類されます。 これにより、食欲抑制や血糖値の安定化、エネルギー消費の促進など、多面的な効果が期待できます。 一方、マンジャロは主に糖尿病治療を目的としており、肥満治療は副次的な効果に留まります。ゼップバウンドの投与は週1回の皮下注射で行われ、2.5mgから開始し、4週間ごとに用量を調整します。 最終的な推奨維持量は5mg、10mg、15mgとなっています。副作用として、吐き気や嘔吐、便秘、下痢などの消化器症状が報告されていますが、長期使用とともに軽減する傾向があります。 また、膵炎や甲状腺髄様癌、多発性内分泌腫瘍(MEN)2型のリスクも指摘されており、これらの疾患の既往歴がある方や家族歴がある患者には使用が禁忌とされています。ゼップバウンドは、肥満治療の新たな選択肢として注目されていますが、使用に際しては医師との綿密な相談と定期的な健康モニタリングが不可欠です。健康的な食生活や適度な運動と組み合わせることで、より効果的な体重減少が期待できます。 まとめ肥満治療薬としてのゼップバウンドは、食事療法や運動療法と併用することで、肥満やその関連疾患の改善に大きな効果を発揮します。ただし、使用時には副作用や禁忌事項に十分注意し、医師の指導を仰ぐことが必要です。肥満に悩む方にとって、新たな治療の選択肢となるゼップバウンドの今後に期待です。 当院ではMASH,MASLDの患者さん達への新しい治療選択になると考えています。引用文献Wilding, J.P.H., et al. (2021). "Efficacy of once-weekly semaglutide in adults with overweight or obesity: the STEP trial programme." The Lancet.Kushner, R.F., et al. (2020). "Weight Reduction in Individuals with Obesity: A Review of Semaglutide Studies." PubMed.脂肪肝専門外来(アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性疾患/NAFLD、非アルコール性脂肪性肝炎/NASH)