原発性胆汁性胆管炎~以前から原因不明の肝機能障害と言われている方~

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の発見契機

当院では原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の患者さんの診断治療を行っています。
診断に至る比較的よくあるケースは40から60歳代の女性で、以前から健康診断など採血の際に軽度の肝機能障害(AST、ALT、γGTP、ALPなど)が持続しているが、軽度の為精査がされていない方に一定数いらっしゃいます。

このページでは原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)に関しての説明をします。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)とは

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、以前は原発性胆汁性肝硬変と言われていましたが、病名が変更されました。
この疾患は国のしてい難病となっており、肝臓内の小型の胆管が慢性的に炎症を起こし、最終的に胆管が破壊される自己免疫疾患で、肝臓に胆汁が滞留する「胆汁うっ滞」を引き起こし、肝硬変や肝不全へ進行する可能性があります。
患者の大半は中年以降の女性で、初期症状が軽微もしくは無症状であるため、定期的な血液検査が重要です。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の疫学

罹患率と有病率

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は比較的まれな疾患ですが、特定の地域や人種においては有病率が高い傾向があります。

  • 有病率:10万人あたり約30~50人程度と推定されていますが、地域差があります。北欧や北米では特に高い有病率が報告されています。
  • 罹患率:年間10万人あたり約3~5人とされています。これは慢性肝疾患の中でも中程度の頻度を示します。

性別と年齢分布

  • 性別:患者の90%以上が女性であり、女性の自己免疫疾患に関連する特徴が見られます。
  • 年齢:典型的には40~60歳で診断されることが多く、中年以降の女性が最も影響を受けやすい層です。
    近年、早期診断技術の向上により、若年層でも発見されるケースが増加しています。

地理的分布

PBCの有病率は地理的に大きな差があります。

  • 北欧や北米では比較的高い有病率が報告されています。
  • アジアでは全体的に低い有病率とされていますが、日本では近年、患者数が増加傾向にあり、定期的な肝機能検査の重要性が高まっています。

家族歴の関連

PBCには遺伝的素因が関与していると考えられています。

  • 患者の家族にPBCや他の自己免疫疾患がみられる頻度が一般人口より高いことが報告されています。
  • 特にHLA(ヒト白血球抗原)の特定の型が発症リスクに関連している可能性が示唆されています。

リスク因子

以下の因子がPBCの発症に関連している可能性があります:

  • 自己免疫疾患の既往:甲状腺疾患(橋本病やバセドウ病)、シェーグレン症候群、関節リウマチなどを合併するケースが多い。
  • 環境因子:特定の環境トリガー(例:感染症や毒素)が自己免疫反応を引き起こす可能性があります。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の原因

自己免疫による発症

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、自己免疫反応が主な原因とされています。
患者の免疫系が自身の肝臓内の小型胆管を攻撃し、慢性炎症と破壊を引き起こします。
この自己免疫反応には以下が関連します。

  • 抗ミトコンドリア抗体(AMA)
    PBC患者の約95%で検出される特異的な自己抗体です。この抗体は、細胞内のエネルギー産生に関わるミトコンドリアの成分(特にPDC-E2)を標的とします。この抗体が炎症の引き金になると考えられています。

  • 免疫細胞の活性化
    Tリンパ球(特にCD4+およびCD8+細胞)が胆管上皮細胞を攻撃し、胆管の炎症と破壊を引き起こします。


その他の因子遺伝的素因

PBCには家族歴やHLAなどの遺伝的要素が関与していると考えられています。
また環境因子や腸内環境による因子など様々な憶測がありますが、明確な原因は同定されていません。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の症状

初期症状

PBCは初期段階では無症状のことが多く、健康診断などで偶然発見されるケースが多々あります。
しかし、症状が現れる場合、以下のような特徴があります。

  • 全身のかゆみ(瘙痒感)
    胆汁うっ滞により皮膚内に胆汁酸が蓄積することで引き起こされます。この症状は特に夜間に悪化することがあります。

  • 口や目の乾燥
    シェーグレン症候群を合併している場合に見られることがあります。

進行した症状

病気が進行すると、より明確な症状が現れます。
症状はでるまでには相当の年月がかかります。
現代の健康診断発展している時代では、進行した状態での発見はかなり少なくなっています。
最近では次に説明する無症候型が増えています。

  • 黄疸
    ビリルビン(胆汁色素)の血中濃度が上昇することで皮膚や眼球が黄色くなる状態です。

  • 肝腫大や脾腫
    肝臓や脾臓の炎症により、これらの臓器が拡大することがあります。

  • 脂溶性ビタミン欠乏症(A, D, E, K)
    胆汁の分泌障害により脂溶性ビタミンの吸収が低下し、視力低下(ビタミンA欠乏)、骨粗鬆症(ビタミンD欠乏)、出血傾向(ビタミンK欠乏)などが起こることがあります。

  • 肝硬変の症状
    病気が進行すると肝硬変に至り、腹水、浮腫、食道静脈瘤などの合併症が現れます。

無症候型PBCとは

原発性胆汁性胆管炎(PBC)は、進行性の自己免疫疾患ですが、「無症候型」と呼ばれる状態で発見されることが増えています。
この段階で疾患を発見することは症状がないため困難ですが、健康診断や他の目的で行った血液検査がきっかけで診断されることが少なくありません。

このタイプのPBCでは、健康診断やかかりつけ医での定期採血、献血などでAST、ALT、ALP、γ-GTPの持続的な上昇から発見されることが多いです。
当院を受診され、抗ミトコンドリア抗体(AMA)陽性などで診断されることがあります。

無症候型は全PBCの20-60%いると言われており、長期的には症状を発症し、病気が進行することが有りますが、全く症状もなく治療も不要な方もいらっしゃいます。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の診断と検査

次のいずれか1つに該当するものをPBC と診断されます。

  1. 組織学的にPBCに特徴的な所見を認め,検査所見がPBC として矛盾しないもの
  2. 抗ミトコンドリア抗体が陽性で,組織学的には典型的なPBCの所見を認めないが,PBC に矛盾しない組織像を示すもの
  3. 組織学的検索の機会はないが,抗ミトコンドリア抗体が陽性で,しかも臨床像及び経過からPBC と考えられるもの

組織学的検索とは肝生検など侵襲的に肝細胞を調べる検査で、現在は診断目的で積極的に行われることは減ってきました。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の検査

1. 血液検査

血液検査はPBCの診断と病状のモニタリングにおいて最も基本的かつ重要な方法です。

肝機能検査
  • アルカリホスファターゼ(ALP)

    胆汁うっ滞を示す主要な指標で、多くのPBC患者で上昇します。
    早期段階から上昇が見られ、進行度とともに値が高くなる傾向があります。
  • γ-グルタミルトランスフェラーゼ(γ-GTP)

    胆管の損傷や胆汁うっ滞を示す指標で、ALPと併せて評価されます。
  • ビリルビン

    総ビリルビン値の上昇は、病気が進行し肝機能が悪化した場合に見られます。
  • トランスアミナーゼ(AST, ALT)

    軽度の上昇がみられることがありますが、主に肝細胞の損傷を反映します。
自己抗体検査
  • 抗ミトコンドリア抗体(AMA)

    PBC患者の約95%で陽性となる特異的抗体です。
    診断において非常に重要な指標であり、特にM2サブタイプが特異的とされています。
  • 抗核抗体(ANA)

    AMA陰性のPBC患者の一部で陽性となることがあります。
    特に、セントロメア抗体,gp210抗体やsp100抗体が診断や予後の評価に有用です。
その他の血液検査
  • 免疫グロブリンM(IgM)

    ほとんどのPBC患者で上昇が見られる免疫指標です。
  • 肝機能評価

    アルブミン、凝固能(プロトロンビン時間:PT)を測定し、肝臓の合成機能を評価します。

2. 画像検査

画像検査は、確定診断より胆管系の異常や他の疾患との鑑別に役立ちます。

腹部超音波検査

肝臓や胆管の形態異常、胆管拡張の有無を確認します。
PBCでは胆管が正常であることが多いですが、慢性肝疾患の進行に伴う線維化や肝硬変の所見が見られることがあります。

磁気共鳴胆管膵管造影(MRCP)

胆管系の詳細な評価に使用されます。
原発性硬化性胆管炎(PSC)との鑑別に有用で、PBCでは胆管の狭窄や拡張が一般的に見られません。

CT検査

肝臓の形態や血流の異常を確認するために使用されます。
他の肝疾患や腫瘍性病変を除外する際に有用です。

フィブロスキャン検査

肝臓の繊維化をその場で調べることが出来る検査で、エラストグラフィーと呼ばれるものの一種です。
珍しい機械の為、限られた医療機関でしか検査ができません。
当院ではいち早くフィブロスキャンを導入しており、PBCの治療経過や診断に活用しています。

3. 肝生検

肝生検は、診断が不確実な場合や病態の進行度を評価するために行われまが、近年は実施機会が減っており実施される患者さんは限定的になっています。

適応

AMA陰性の場合。
他の肝疾患(自己免疫性肝炎やPSC)との鑑別が必要な場合。
病期(線維化や肝硬変の程度)の評価。

病理学的特徴

慢性非化膿性破壊性胆管炎(CNSDC)
小型胆管におけるリンパ球や形質細胞の浸潤、胆管の破壊が特徴的です。

線維化
病期が進行するにつれて、肝小葉周囲の線維化が顕著になります。


4. 疾患の進行評価

PBCの進行状況を把握するための追加検査として、以下が用いられます:

肝硬度測定(FibroScan)
非侵襲的に肝線維化の程度を評価します。

血液線維化マーカー
AST/ALT比、FIB-4スコア、APRIなどが進行度の指標として用いられます。


5. 鑑別診断のための検査

PBCを診断する際には、他の疾患との鑑別が重要です:

  • 原発性硬化性胆管炎(PSC)
    MRCPでの胆管の狭窄や拡張を確認。

  • 自己免疫性肝炎(AIH)
    トランスアミナーゼの高度上昇と免疫グロブリンG(IgG)の上昇を評価。

  • 薬剤性肝障害
    薬剤使用歴を詳細に確認。

  • 閉塞性胆管疾患(胆石や腫瘍)
    画像検査での明確な閉塞所見が重要です。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の治療

薬物療法

PBC治療の中心は、肝臓の炎症や胆汁うっ滞を抑制し、肝硬変への進行を遅らせることです。

ウルソデオキシコール酸(UDCA)

UDCAは胆汁の流れを改善し、胆汁うっ滞を抑制する薬剤です。PBCの標準治療薬として、軽症から中等症の患者に最初に処方されます。
PBC治療の基本となる薬剤です。
内服による副作用もあまりなく、費用も高くないため治療のハードルが低い薬剤です。
一方で約30~40%の患者では、UDCA単独では十分な効果が得られない場合があります。

フィブラート系薬剤

UDCAで十分な効果が得られない場合に使用される併用される補助療法。胆汁酸代謝を調整し、炎症を抑える作用があります。
ベザフィブラート、ペマフィブラートなどがあります。

 免疫抑制剤やステロイド

炎症が強い場合やオーバーラップ症候群(PBCと自己免疫性肝炎の併発)がある場合に使用されることがあります。
アザチオプリン、タクロリムス、シクロスポリン、プレドニンなど

 症状緩和のための薬剤

瘙痒感のある方へは、下記を使用することが有ります。
コレスチラミン:胆汁酸の腸内再吸収を抑制し、瘙痒感を軽減。
リファンピシン:瘙痒感を抑える作用を持つ抗生物質。
ナルトレキソン:オピオイド受容体拮抗薬。

肝移植

適応
  • 肝硬変が進行し、肝機能が著しく低下した場合。
  • 重度の症状(瘙痒感や倦怠感)が治療に反応しない場合。
  • MELDスコア(Model for End-Stage Liver Disease)による重症度評価が移植適応基準を満たす場合。

現在では早期発見が増えてきているため、肝移植症例は減少傾向にあります。

原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の予後

PBCは進行性の慢性疾患ですが、適切な治療と早期診断によって予後を大幅に改善することが可能です。
ウルソデオキシコール酸(UDCA)などの治療の導入以降、PBCの予後は劇的に向上しました。

UDCA治療を受けている患者の多くは、正常な肝機能を維持しながら長期間生活することが可能です。
治療に反応する患者の10年生存率は、一般人口とほぼ同等です。
現在は早期診断が可能になり、UDCAの効果もあることから70~80%の患者は肝硬変にいたることはありません。
さらに無症候性の方は、予後は健常人と変わらないとされ、日常生活の制限もなく通常通りの生活が送れます。
UDCAに反応する患者では、肝硬変への進行リスクが大幅に低下します。

PBCは病気の特性上、数週間で病状が進行することはありません。
落ち着いて受診をして、検査を実施することで問題なく治療を行えるになりました。

まとめ

当院では原発性胆汁性胆管炎(Primary Biliary Cholangitis, PBC)の患者さんの診断治療を実施してます。

原因不明の肝障害の患者さんの中に一定数いらっしゃいます。
当院では採血検査、腹部超音波検査、フィブロスキャンを使用して診断治療を実施します。

原因不明の肝障害でお困りの方は是非当院にご相談下さい。

著者
東長崎駅前内科クリニック 院長 吉良文孝
資格
日本内科学会認定 認定内科医
日本消化器病学会認定 消化器病専門医
日本消化器内視鏡学会認定 内視鏡専門医
日本肝臓学会認定 肝臓専門医
日本消化管学会認定 胃腸科指導医
日本糖尿病学会
日本肥満学会
 
経歴
平成15年 東京慈恵会医科大学 卒業
平成15年 東京警察病院
平成23年 JCHO東京新宿メディカルセンター
平成29年 株式会社サイキンソーCMEO
平成30年 東長崎駅前内科クリニック開院
 
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