目次
背部痛の主な原因
背部痛は、大きく分けて「筋骨格系の問題」と「内臓疾患によるもの」の2つに分類されます。
筋骨格系の問題
(1) 筋肉の疲労やこわばり
長時間のデスクワークや不適切な姿勢は、背中の筋肉に過度の負担をかけ、筋肉の緊張を引き起こします。特に、肩甲骨周辺や腰部の筋肉が硬直すると、痛みを感じることが多くなります。
(2) 椎間板ヘルニア
椎間板ヘルニア(herniated disc)とは、背骨の間にある椎間板が突出し、神経を圧迫する疾患です。特に、胸椎や腰椎のヘルニアは背中の痛みを引き起こします。神経圧迫が強い場合には、腕や脚のしびれを伴うこともあります。
(3) 脊柱管狭窄症
脊柱管狭窄症(spinal stenosis)とは、脊柱管が狭くなることで神経が圧迫され、痛みやしびれを引き起こす疾患です。加齢に伴い発症しやすく、長時間歩くと痛みが増す特徴があります。
(4) 圧迫骨折
骨粗鬆症の高齢者に多く見られるのが圧迫骨折(compression fracture)です。特に胸椎や腰椎に起こりやすく、軽微な外力でも発症することがあります。
内臓疾患が原因の背部痛
背部痛は、消化器疾患や心疾患などの内臓の病気が原因となることもあります。
当院の様な消化器・肝臓内科でも良く受診される症状です。
内視鏡検査や超音波検査なども大事ですが、しっかりと問診や身体診察を受けることが最も大事です。
逆流性食道炎
肩甲骨付近の上背部痛としての症状で受診されます。
食道炎は胸部や心窩部の痛みと思われる方が多いですが、背部痛の症状もかなり多いです。
女性ややせ型の方は背部痛が出る事もあります。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍
逆流性食道炎と同じように上背部痛で受診される方がいます。
胃潰瘍(gastric ulcer)や十二指腸潰瘍(duodenal ulcer)は、胃酸によって粘膜が損傷し、痛みを引き起こします。
みぞおちの痛み(心窩部痛)が主な症状と思われる方が多いと思いますが、胃や十二指腸の後方に潰瘍ができた場合、背中の痛みとして感じることがあります。食後に痛みが悪化する場合は要注意です。
胆石症
胆石症(cholelithiasis)では、胆のう内に胆石が形成され、右上腹部から右背中にかけて痛みが生じることがあります。
食後に強い痛みが出ることが特徴です。
慢性膵炎・膵臓がん
膵臓は背中側に位置しているため、慢性膵炎(chronic pancreatitis)や膵臓がん(pancreatic cancer)の初期症状として背部痛が現れることがあります。
急性膵炎でも背部痛がありますが、症状が激烈のため背部痛のみでなく腹痛などの症状も伴うことが多いです。
特に、食事と関係なく持続する痛みがある場合は注意が必要です。
痛みの場所としては臍の裏くらいの背部が痛む傾向があります。
狭心症・心筋梗塞
背中の痛みは、狭心症(angina pectoris)や心筋梗塞(myocardial infarction)によるものの可能性もあります。
特に、左肩や左上背部に痛みが拡散し、動悸や息切れを伴う場合は、早急な受診が必要です。
腎結石・腎盂腎炎
腎結石(renal stone)は、腎臓内に結石ができることで、側腹部から背中にかけて激しい痛みを伴うことがあります。
また、腎盂腎炎(pyelonephritis)は腎臓の細菌感染による炎症で、発熱や背部痛を引き起こします。
痛みも場所は下背部で、病気のある腎臓側が痛くなります。
そのため真ん中が痛む場合は可能性が低くなります。
大腸の痛み
女性に多いですが左側腹部から左背部にかけて痛みが出ることや、左下腹部から左背部にかけて痛みが出ることがあります。
大腸の左側はガスや便が溜まりやすく、それによって腸が進展されて痛む場合があります。
当院では比較的多い症状です。
背部痛の診断方法
背部痛の原因を特定するために、以下のような検査が行われます。
1. 問診
痛みの発生状況、部位、強さ、関連症状(発熱、しびれ、嘔吐など)を確認します。
2. 身体診察
筋肉や骨格の異常を調べるために、触診や可動域の確認を行います。
3. 画像診断
- 腹部超音波検査:肝臓・胆のう・膵臓・腎臓の検査に用います
- 上部消化管内視鏡検査(胃カメラ):食道炎や胃潰瘍の診断に用います
- 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ):大腸の性が必要な際に使用します
- レントゲン(X線): 骨の異常を確認するために行われます。
- MRI(磁気共鳴画像): 椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症の診断に有用です。
- CT(コンピュータ断層撮影): 内臓疾患や腫瘍の評価に用いられます。
4. 血液検査・尿検査
膵炎や腎臓疾患の診断のため、炎症反応や腎機能を評価します。
尿の中に細菌が含まれているかなどの検査をします。
背部痛の治療法
背部痛の治療法は、原因に応じて異なります。
筋骨格系の痛みの治療
- 安静とストレッチ: 適度な休息とストレッチで筋肉の緊張を和らげます。
- 鎮痛薬(NSAIDs): **非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs, NSAIDs)**は、痛みや炎症を抑えるのに有効です。
- 理学療法: 姿勢改善や運動療法を行い、再発予防を図ります。
内臓疾患による背部痛の治療
- 逆流性食道炎・胃潰瘍: 胃酸を抑えるプロトンポンプ阻害薬(PPI)を使用します。
- 胆石症: 進行した胆石は、胆のう摘出術(cholecystectomy)が必要になることがあります。
- 膵炎: 絶食・輸液管理で膵臓を休める治療が行われます。
- 心筋梗塞: 速やかに心臓カテーテル治療が必要になります。
- 大腸の痛み:漢方薬などを使用します。
まとめ
背部痛は筋肉や骨格の異常によるものから、消化器疾患や心血管疾患が原因となることもあります。
特に、持続する痛みや食後の痛み、発熱を伴う場合は、早めに医療機関を受診することが重要です。
症状に応じて適切な診断を受け、適切な治療を行うことで、健康的な生活を取り戻すことができます。
参考文献
- Barkin, R.L., et al. (2017). "Chronic Pain Syndromes: Evaluation and Treatment." American Family Physician, 95(4), 262-268.
- Peery, A.F., et al. (2019). "Burden of Gastrointestinal, Liver, and Pancreatic Diseases in the United States." Gastroenterology, 156(1), 254-272.