代謝異常関連脂肪肝(Metabolic dysfunction associated fatty liver disease:MAFLD)の早期発見の重要性 event_note2024.12.31あなたは、健康診断で「脂肪肝」と診断されたにもかかわらず、お酒をほとんど飲まないため、不思議に思っているかもしれません。 実は、アルコールを摂取しなくても脂肪肝になる「代謝異常関連脂肪肝(Metabolic dysfunction associated fatty liver disease:MAFLD)」という病気が存在します。2020年に名称変更されたこの病気は、放置すると肝硬変や肝臓がんといった深刻な病気に進行する可能性も潜んでいます。代謝異常関連脂肪肝(Metabolic dysfunction associated fatty liver disease:MAFLD)は、肝臓に脂肪が蓄積し、肥満、糖尿病、高血圧、脂質異常症といった代謝異常を伴うことが多い病気です。初期段階では自覚症状がほとんどないため、気づかないうちに病気が進行してしまうケースも少なくありません。まさに沈黙の臓器である肝臓の病であるMAFLDは、早期発見・早期治療が肝要です。この記事では、MAFLDの定義、症状、原因、早期発見の方法、そして治療法まで、MAFLDに関する重要な情報を網羅的に解説します。もしかしたら、あなたもMAFLDのリスクを抱えているかもしれません。ぜひ、この記事を読み進めて、MAFLDへの理解を深め、健康管理に役立ててください。 ・代謝異常関連脂肪肝(Metabolic dysfunction associated fatty liver disease:MAFLD)とは?その定義と症状 最近、健康診断で「脂肪肝」と診断されても、お酒をほとんど飲まない方は「なぜ?」と疑問に思うかもしれません。実は、アルコールを摂取していなくても脂肪肝になることがあり、これを以前はNAFLDと呼ばれていましたが、今はアルコールより代謝異常の合併に焦点をあてた代謝異常関連脂肪肝(Metabolic dysfunction associated fatty liver disease:MAFLD)という概念が重要とされています。 MAFLDはNAFLDと同様に放置すると、肝硬変や肝臓がんといった深刻な病気に進行する可能性もあるため、正しく理解し、早期発見・早期治療に繋げることが非常に重要です。 NAFLDとMAFLDの差は代謝疾患の有無になります。 そのためMAFLDの場合は代謝疾患進行としての動脈硬化に関しても治療を行う必要があり、NAFLDより治療介入が必要な状況と言えます。 ・MAFLDの定義:脂肪肝と炎症の有無で診断 MAFLDは「代謝異常関連脂肪性肝疾患」の略称です。以前はNAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)と呼ばれていましたが、2020年にMAFLDへと名称が変更されました。これは、脂肪肝に、肥満、2型糖尿病、高血圧、脂質異常症といった代謝異常が合併することが多く、これらの代謝異常が肝疾患の進行に大きく関与していることが明らかになったためです。MAFLDの診断は、以下の3つの条件のうち、1と2を満たし、さらに3のいずれかを満たすことで確定されます。肝臓に脂肪が蓄積している(脂肪肝)過剰なアルコール摂取がない肥満、2型糖尿病、メタボリックシンドロームのいずれか、あるいは複数の代謝異常がある肝臓に脂肪が蓄積しているかは、腹部超音波検査で確認します。また、血液検査で血糖値やコレステロール値などを測定し、代謝異常の有無を調べます。これらの結果を総合的に判断して、MAFLDと診断します。詳しくお話を伺うと、普段から甘いものや脂っこいものが好きで、運動習慣がない方が多い印象です。一見健康そうに見える方でも、MAFLDと診断されるケースは少なくありません。 ・MAFLDの症状:初期は無症状が多い MAFLDの初期段階では、自覚症状がほとんどないことが大きな特徴です。そのため、健康診断などで指摘されるまで気づかないケースが非常に多く、病気がかなり進行してから発見されることも珍しくありません。自覚症状がないため、「自分は大丈夫だろう」と安易に考えて放置してしまう方もいらっしゃいます。しかし、まさに“沈黙の臓器”と呼ばれる肝臓の病気は、気づかないうちに徐々に進行していくため、定期的な検査を受けることが重要です。 ・MAFLDの進行:脂肪肝炎、肝硬変、肝がんへ MAFLDは放置すると、徐々に悪化していきます。単純性脂肪肝:肝臓に脂肪が蓄積した状態。肝機能検査の結果は正常範囲内であることが多いです。脂肪肝炎(NASH):肝臓に脂肪が蓄積するだけでなく、炎症も起こっている状態。肝機能検査値の上昇が見られるようになります。肝硬変:肝臓が硬くなってしまう状態。肝機能が低下し、様々な合併症を引き起こす可能性があります。肝がん:肝臓に悪性腫瘍が発生した状態。MAFLDが進行すると、倦怠感、食欲不振、腹部の張りなどの症状が現れることもあります。しかし、これらの症状は他の病気でも見られるため、MAFLD特有の症状とは言えません。MAFLDが肝硬変まで進行すると、腹水、黄疸、食道静脈瘤破裂などの重篤な合併症を引き起こすリスクが高まります。また、肝がんを発症するリスクも上昇します。 ・MAFLDとNAFLDの違い:メタボリック異常の有無 前述のように、以前はアルコールをあまり飲まない人の脂肪肝は「NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)」と呼ばれていました。NAFLDは脂肪肝全体を指すのに対し、MAFLDは脂肪肝に加えて、肥満や糖尿病などの代謝異常がある場合に診断されます。つまり、MAFLDはNAFLDの一種であり、より重症化しやすい状態と言えるでしょう。NAFLDは、風邪のようなものだと考えてください。多くの人は自然に治癒しますが、一部の人は肺炎のような重篤な病気に進行する可能性があります。MAFLDは、まさにこの肺炎に相当する病態です。適切な治療を行わなければ、肝硬変や肝がんといった生命に関わる病気に進行するリスクがあります。 ・MAFLDの主な原因4つとリスク要因 MAFLDと診断されると、「なぜ自分が?」と戸惑う方も少なくありません。MAFLDは、現代社会に蔓延する生活習慣病と密接に関連しています。特に、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧はMAFLDの主要な原因となるため、これらがMAFLDとどのように関わっているのか詳しく見ていきましょう。 肥満:内臓脂肪の蓄積MAFLDの大きな原因の一つは肥満、特に内臓脂肪の蓄積です。内臓脂肪とは、お腹の奥深く、胃や腸などの臓器の周りにつく脂肪のことです。皮下脂肪はお腹やお尻など皮膚の下につく脂肪を指し、内臓脂肪は皮下脂肪に比べて、よりMAFLDのリスクを高めます。例えば、同じBMIでも、お腹が出ているリンゴ型肥満の方は、内臓脂肪が多くMAFLDのリスクが高い可能性があります。これは、内臓脂肪から分泌される様々な物質が、肝臓に脂肪をため込みやすくしたり、炎症を起こしやすくしたりするためです。私のクリニックにも、見た目にはそれほど太っていないのに、お腹だけがぽっこり出ている方が来院されます。このような方は、CT検査で内臓脂肪の蓄積を確認すると、驚くほど脂肪が溜まっているケースがよくあります。内臓脂肪を減らすためには、バランスの良い食事と適度な運動が不可欠です。具体的には、お菓子やジュースなどの糖分の多い食品、そして揚げ物などの脂質の多い食品を控え、野菜や果物、海藻、きのこなどを積極的に摂りましょう。また、ウォーキングや軽いジョギングなどを毎日30分程度行うだけでも、内臓脂肪の減少に効果があります。週に数回、ジムで筋トレを行うこともおすすめです。筋肉量が増えると基礎代謝が上がり、脂肪が燃焼しやすくなるため、MAFLDの予防にも繋がります。 糖尿病:血糖値コントロールの不良糖尿病もMAFLDの大きな原因の一つです。特に、血糖値コントロールが不良な状態が続くと、肝臓に負担がかかり、脂肪が蓄積しやすくなります。高血糖の状態では、インスリンの働きが低下し、糖の代謝がうまくいかなくなります。すると、肝臓での中性脂肪の合成が促進され、脂肪肝を引き起こすのです。その方は、食生活の乱れや運動不足を自覚しており、MAFLDのリスクについても心配されていました。検査の結果、やはりMAFLDと診断され、糖尿病の治療と並行して、MAFLDの治療も開始しました。糖尿病の方は、食事療法、運動療法、そして必要に応じて薬物療法を行い、血糖値を適切にコントロールすることがMAFLDの予防・改善に繋がります。 脂質異常症:中性脂肪やコレステロール値の上昇脂質異常症とは、血液中のコレステロールや中性脂肪の値が基準値よりも高くなってしまっている状態のことです。脂質異常症も、MAFLDのリスクを高める要因の一つです。コレステロールや中性脂肪が高い状態が続くと、肝臓に脂肪がたまりやすくなります。特に、中性脂肪は肝臓で合成され、エネルギー源として利用されますが、過剰な中性脂肪は肝臓に蓄積されて脂肪肝の原因となります。その方は、食生活には気を付けているつもりでしたが、脂質異常症とMAFLDを併発していました。健康診断などでコレステロールや中性脂肪が高いと指摘された方は、生活習慣の改善に取り組むことがMAFLDの予防・改善に重要です。 高血圧:動脈硬化のリスク増加高血圧も、MAFLDのリスクを高める要因の一つです。高血圧の状態が続くと、血管が傷つき、動脈硬化を引き起こしやすくなります。動脈硬化は、肝臓への血流を悪くし、MAFLDの発症や進行を促進する可能性があります。また、動脈硬化は心筋梗塞や脳梗塞といった生命に関わる病気を引き起こす危険性もあるため、高血圧の管理はMAFLDの予防・改善だけでなく、全身の健康維持にも不可欠です。その方は、MAFLDのリスクについても理解しており、定期的に検査を受けていましたが、残念ながらMAFLDを発症してしまいました。高血圧を予防・改善するためには、減塩を心がけ、適度な運動を習慣化することが重要です。具体的には、1日6g未満の食塩摂取を目標とし、加工食品やインスタント食品の摂取を控えましょう。また、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動を継続的に行うことで、血圧を下げる効果が期待できます。MAFLDは、これらの生活習慣病が複雑に絡み合って発症すると考えられています。これらのリスク要因を複数持っている方は特に注意が必要であり、定期的な検査と生活習慣の改善が重要です。 ・MAFLDの早期発見:検査方法と診断基準 MAFLDは自覚症状がないまま進行することが多いため、まさに沈黙のうちに肝臓を蝕む病気と言えるでしょう。気づかないうちに病気が進行し、手遅れになってしまうケースも少なくありません。だからこそ、MAFLDの早期発見は非常に重要です。早期に発見し、適切な治療を開始することで、病気の進行を遅らせたり、重症化を防いだりすることができます。また、生活習慣の改善にも取り組みやすくなり、より健康な生活を送ることに繋がります。ただ単に「脂肪肝」と診断されても、深刻に捉えない方もいらっしゃるかもしれません。しかし、MAFLDは放置すると肝硬変や肝がんといった生命に関わる病気に進行するリスクがあるため、軽視することはできません。この章では、MAFLDの早期発見に役立つ検査方法と診断基準について詳しく解説します。 血液検査:肝機能マーカー(AST、ALTなど)血液検査では、肝臓の炎症の程度を調べる肝機能マーカー(AST、ALTなど)を測定します。これらの数値が高い場合は、肝臓に負担がかかっているサインかもしれません。肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、多少ダメージを受けても痛みを感じにくい臓器です。具体的な数値を示すと、健康な方のASTとALTの値は通常20~40 U/L程度です。しかし、MAFLDの患者さんでは、これらの数値が50 U/L、100 U/L、あるいはそれ以上に上昇することもあります。また、血糖値やコレステロール、中性脂肪などの数値も測定し、代謝異常の有無を確認します。これらの検査結果は、MAFLDの診断だけでなく、治療方針を決定する上でも重要な情報となります。 画像検査:腹部超音波検査、CT、MRI画像検査では、肝臓の状態を視覚的に確認します。代表的な検査方法には、腹部超音波検査、CT、MRIなどがあります。腹部超音波検査は、手軽に肝臓の大きさや脂肪の蓄積状態を調べることができる検査です。検査自体は痛みを伴わず、時間も短時間で済みます。例えば、脂肪肝では、肝臓が白っぽく映ります。これは、肝臓に脂肪が蓄積しているためです。また、肝硬変になると、肝臓の表面がゴツゴツとした状態になります。これらの画像所見は、MAFLDの診断に役立ちます。CTやMRIは、超音波検査よりも詳細な画像を得ることができ、肝臓の炎症や線維化の程度をより正確に評価することができます。最近では、腹部超音波検査で肝臓の硬さを数値化できる機器も普及してきています。肝臓が硬いほど線維化が進んでいる可能性が高いため、この検査もMAFLDの診断や進行度の評価に役立ちます。 フィブロスキャン:繊維化や脂肪化の測定フィブロスキャンと呼ばれる医療機器を当院では導入しております。 この機器は肝臓の脂肪の量と肝臓の炎症の結果である繊維化の程度を測定することが出来ます。 それにより肝臓の状態をより詳細に把握することが出来、診断や治療経過を診ていくうえで非常に重要な検査となります。しかしながらフィブロスキャンは都内でも導入が少ない医療機器であるため、限られた施設でしか検査ができません。 当院では開業時よりフィブロスキャンを導入しており、また本院である池袋東長崎院では数年前から他の医療機関に先駆けてフィブロスキャンを導入しており、多くの治療・検査の経験・治験があります。 MAFLDの診断基準:画像診断と血液検査の結果を総合的に判断MAFLDの診断は、画像診断と血液検査の結果を総合的に判断して行います。 具体的には、腹部超音波検査などで脂肪肝と診断され、かつ肥満、2型糖尿病、または2種類以上の代謝異常(高血圧、高脂血症、高血糖など)のいずれかがある場合にMAFLDと診断されます。 肝生検は確定診断に有用ですが、侵襲的な検査であるため、通常は腹部超音波検査と血液検査・フィブロスキャンの結果を総合的に判断します。 世界的な糖尿病と肥満の増加に伴い、MAFLDは公衆衛生上の大きな課題となっており、早期発見と適切な治療、そして生活習慣の改善が重要です。 ・MAFLDの治療法3つ:食事・運動・薬物療法 MAFLDと診断された時、どうすれば良いのか途方に暮れる方もいるかもしれません。治療は長期戦になるため、焦らず、そして諦めずに、一歩ずつ進んでいきましょう。MAFLDの治療は、「食事療法」「運動療法」「薬物療法」という3つの柱で成り立ちます。 食事療法:カロリー制限と栄養バランス食事療法の最大の目標は、摂取カロリーを適切にコントロールし、栄養バランスのとれた食事を摂ることです。肝臓に脂肪が過剰に蓄積されるのを防ぎ、すでに蓄積された脂肪を少しずつ減らしていくためには、毎日の食事内容を丁寧に調整していく必要があります。具体的なカロリーの目安は、標準体重 × 25~30kcalです。例えば、標準体重が60kgの方は、1日1500~1800kcalを目安にしましょう。ただ、これはあくまで目安であり、年齢や活動量、MAFLDの進行度などによって調整が必要な場合もあります。食事の内容としては、以下の5つのポイントを意識してみてください。野菜をたくさん摂る: 野菜には、ビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富に含まれています。目標は1日350g以上です。例えば、ほうれん草のおひたし、ブロッコリーのサラダ、きんぴらごぼうなどを積極的に食べるようにしましょう。食物繊維は、糖の吸収を穏やかにし、血糖値の急上昇を抑える効果も期待できます。良質なタンパク質を摂る: 肉、魚、卵、大豆製品などに含まれるタンパク質は、肝臓の細胞の修復に役立ちます。鶏むね肉のソテー、鮭の塩焼き、豆腐ステーキなどがおすすめです。特に、魚介類には、肝臓に良いとされるDHAやEPAといった不飽和脂肪酸も含まれています。糖質を控える: 白米、パン、麺類などの糖質の摂り過ぎは、中性脂肪を増やし、肝臓に負担をかけます。ご飯の量を減らしたり、玄米や雑穀米に変えたりするなどの工夫をしましょう。また、果物にも糖質は含まれていますので、摂り過ぎには注意が必要です。脂質の質にこだわる: 揚げ物や脂身の多い肉などは控え、魚に含まれる良質な油や、オリーブオイル、ナッツ類などを摂取するようにしましょう。これらの食品に含まれる不飽和脂肪酸は、肝臓の健康維持に役立ちます。バランスの良い食事: 主食、主菜、副菜を揃え、様々な食材から栄養を摂るように心がけましょう。朝食はパンではなくご飯にする、夕食に野菜炒めを追加するなど、毎日の食事を見直してみましょう。外食が多い方は、栄養バランスに配慮したメニューを選ぶように心がけましょう。 運動療法:有酸素運動とレジスタンス運動運動療法は、肝臓に脂肪が蓄積するのを防ぎ、MAFLDの進行を抑制する効果があります。Pouwelsらの研究(2022)でも、減量はNAFLDの病態生理、臨床管理に良い影響を与え、ピオグリタゾンとビタミンEが特定の患者に推奨されているとされています。 具体的には、1週間に150分以上の運動を目標に、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動と、スクワットや腕立て伏せなどのレジスタンス運動を組み合わせると効果的です。有酸素運動: ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリングなどがおすすめです。30分程度のウォーキングを週に5日行う、15分程度のジョギングを週に3日行うなど、無理のない範囲で続けられるように工夫しましょう。毎朝通勤時に一駅分歩くなど、日常生活の中に運動を取り入れることで、無理なく続けることができます。日常生活の中に運動を取り入れることで、無理なく続けることができます。レジスタンス運動: スクワット、腕立て伏せ、腹筋運動などの筋トレは、筋肉量を増やし、基礎代謝を高める効果があります。週に2~3回行うのがおすすめです。筋肉量が増えると、エネルギー消費量が増え、脂肪が燃焼しやすくなります。運動を始める際は、急に激しい運動をするのではなく、徐々に強度や時間を増やしていくことが大切です。自分の体力に合った運動を選び、無理なく続けられるようにしましょう。特に、高齢の方や持病のある方は、医師に相談してから運動を始めるようにしてください。 薬物療法:糖尿病治療薬や脂質異常症治療薬食事療法や運動療法で効果が不十分な場合、あるいはMAFLDが進行している場合は、薬物療法を検討します。糖尿病や脂質異常症を合併している場合は、これらの治療薬を使用することでMAFLDの進行を抑制する効果が期待できます。現時点では、MAFLDの治療に特化した保険適用の薬はありません。しかし、糖尿病治療薬や脂質異常症治療薬の中には、MAFLDの改善に効果があることが報告されているものもあります。医師とよく相談し、自分の病状に合った治療法を選択することが重要です。治療効果や副作用には個人差がありますので、定期的に医師の診察を受け、経過観察を行うようにしましょう。 ・MAFLDの予防と日常生活の注意点 MAFLDは、生活習慣病と密接に関連しているため、生活習慣を改善することで予防したり、進行を遅らせたり、症状を改善したりすることが可能です。日々の生活の中で、どんなことに気をつければ良いのか、一緒に見ていきましょう。 食生活の改善:バランスの良い食事と適度なカロリー摂取MAFLDの予防・改善には、食生活の見直しが非常に重要です。暴飲暴食はもちろんのこと、偏った食事も肝臓に負担をかけます。バランスの取れた食事を心がけ、適度なカロリーを摂るようにしましょう。Pouwelsらの研究(2022)でも、減量はNAFLDの病態生理、臨床管理に良い影響を与えていると示されています。具体的には、ご飯やパン、麺類などの炭水化物、肉や魚、卵、大豆製品などのたんぱく質、野菜や果物などのビタミン・ミネラル、そして油をバランス良く摂ることが重要です。炭水化物と脂質に偏った食生活を改善するために、まず、お弁当にサラダを追加するようにアドバイスしました。さらに、週に2回は自炊し、野菜をたっぷり使った料理を食べるように勧めたところ、数ヶ月後には肝臓の数値が改善しました。1日のカロリー摂取量の目安は、標準体重 × 25~30kcalです。年齢や活動量、MAFLDの進行度などによって調整が必要な場合もありますので、医師や管理栄養士に相談してみるのも良いでしょう。また、果糖の過剰摂取はMAFLDのリスクを高めることが知られています。清涼飲料水や甘いお菓子など、果糖を多く含む食品の摂り過ぎには注意が必要です。清涼飲料水を控えてもらうだけで、肝臓の数値が改善したケースもあります。 適度な運動:ウォーキングやジョギングなど適度な運動は、MAFLDの予防・改善に効果的です。肝臓に脂肪がたまりにくくなるだけでなく、肥満の解消や糖尿病、脂質異常症、高血圧といったMAFLDのリスク要因の改善にも繋がります。運動の種類は、ウォーキングやジョギングなどの有酸素運動がおすすめです。週に3回以上、1回30分程度を目標に、無理なく続けられるペースで続けましょう。私の患者さんの中には、運動習慣が全くない方が多くいらっしゃいます。そのような方には、まず、週に2回、15分のウォーキングから始めてもらうように勧めています。慣れてきたら、徐々に時間や頻度を増やしていくと良いでしょう。運動が苦手な方は、エレベーターではなく階段を使う、一駅分歩いてみるなど、日常生活の中で体を動かす機会を増やすだけでも効果があります。 定期的な健康診断:早期発見・早期治療MAFLDは、初期にはほとんど自覚症状がありません。そのため、定期的な健康診断を受けて、早期発見・早期治療に繋げることが非常に重要です。健康診断では、血液検査や腹部超音波検査などを行い、肝臓の状態をチェックします。特に、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などのリスク要因がある方は、必ず定期的に健康診断を受けるようにしてください。早期に発見できれば、生活習慣の改善や薬物療法などによって、病気の進行を抑制することができます。数年後に再検査したところ、MAFLDが進行し、肝硬変一歩手前の状態になっていたのです。早期発見の重要性を改めて認識させられるケースでした。 禁酒・節酒:肝臓への負担軽減アルコールは肝臓に大きな負担をかけます。過剰な飲酒は、MAFLDのリスクを高めるだけでなく、アルコール性脂肪性肝疾患にもなりかねません。MAFLDを予防・改善するためには、禁酒、もしくは節酒を心がけることが大切です。どうしてもお酒を飲みたい場合は、1日のアルコール摂取量を、男性は20g以下、女性は10g以下に抑えるようにしましょう。これは、ビールなら中瓶1本、日本酒なら1合、ワインならグラス2杯程度に相当します。また、週に2日以上は休肝日を設定することも大切です。 ストレス管理:心身のリラックスストレスは、自律神経やホルモンバランスを乱し、肝臓の働きにも悪影響を及ぼす可能性があります。ストレスを溜め込まないよう、自分に合った方法でストレスを解消するようにしましょう。例えば、ウォーキングやヨガなどの軽い運動、読書や音楽鑑賞などの趣味の時間、ゆっくりとお風呂に浸かる、アロマを焚くなど、心身のリラックスできる時間を作るように心がけてください。また、睡眠不足もストレスの原因となるため、質の良い睡眠を十分に取ることも大切です。規則正しい生活リズムを維持し、毎日同じ時間に寝起きするようにしましょう。 ・まとめ MAFLDは自覚症状がないまま進行し、肝硬変や肝がんといった深刻な病気に繋がる可能性もあるため、早期発見が重要です。 早期発見には、定期的な健康診断での血液検査、腹部超音波検査、CT、MRIが有効です。MAFLDと診断された場合は、食事療法、運動療法、薬物療法を組み合わせた治療を行います。日々の生活では、バランスの良い食事、適度な運動、禁酒・節酒、ストレス管理を心がけ、MAFLDを予防・改善しましょう。特に、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などのリスク要因がある方は、積極的に生活習慣の見直しに取り組み、定期的な健康診断を受けましょう。MAFLDは生活習慣病と密接に関連しており、生活習慣の改善によって予防・改善が可能です。この記事を参考に、ご自身の生活習慣を見直し、肝臓の健康を守りましょう。 参考文献Khrouf S, Letaief Ksontini F, Ayadi M, Belhaj Ali Rais H and Mezlini A. "Breast cancer screening: a dividing controversy." La Tunisie medicale 98, no. 1 (2020): 22-34.Pouwels S, Sakran N, Graham Y, Leal A, Pintar T, Yang W, Kassir R, Singhal R, Mahawar K and Ramnarain D. "Non-alcoholic fatty liver disease (NAFLD): a review of pathophysiology, clinical management and effects of weight loss." BMC endocrine disorders 22, no. 1 (2022): 63脂肪肝専門外来(アルコール性脂肪肝、非アルコール性脂肪性疾患/NAFLD、非アルコール性脂肪性肝炎/NASH)腹部超音波検査(健診で脂肪肝、肝機能異常、胆石、胆嚢ポリープなど、膵臓チェック)フィブロスキャン検査(脂肪肝、非アルコール性脂肪性疾患/NAFLD、非アルコール性脂肪性肝炎/NASH、肝硬変など)