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B型肝炎とは、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染して発症するウイルス性肝炎です。
感染していることに気が付かないまま10年以上かけて肝炎を発症し、肝硬変や肝がんに進行する可能性もあるため、そうなる前に発見・治療する必要があります。
この記事では、B型肝炎が感染する経路や症状・予防方法や、肝心の「治るのか」について紹介します。
子どもの頃に集団予防接種の経験がある、黄疸が出たことがあるなど、心当たりがある人は参考にしてください。
B型肝炎とは
厚生労働省によると、B型肝炎はキャリアと呼ばれる無症状の感染者が、国内に110~140万人存在すると推計されています。
そのうちの約40数万人は、昭和23年から昭和63年までの間に行われていた集団予防接種での注射器の連続使用によって感染したとされています。
裁判で国の責任が認められているため、感染者は給付金を受け取ることができる場合がありますが、保菌だけして症状がない場合、キャリアであることも知らない人がいるのが実情です。
ここでは、B型肝炎の感染経路や症状・検査や診断方法について紹介します。
感染経路
B型肝炎は血液や体液を介して「垂直感染」と「水平感染」の2つの経路によって感染します。
垂直感染とは母子感染のことで、妊娠中や出産時に母体の血液に触れることで感染します。
一方、母子感染以外を指す水平感染には以下のような場合があります。
- 傷のある皮膚への体液の付着
- 性行為など濃密な接触
- 刺青・ピアスの穴あけ
- 静脈注射での薬物乱用
- 不衛生な器具を使用した、出血がみられる医療行為・民間療法
B型肝炎ウイルスは感染時の健康状態によって、急性肝炎を発症する「一過性感染」と、無症候性キャリアになる「持続感染」に分かれます。
B型肝炎ウイルスに感染すると、ウイルス増殖時に肝細胞に入り込んで遺伝子に組み込まれてしまうため、体内からウイルスを追い出すことができません。
現在キャリアになっている感染者に自覚がないために、現在でも新規感染者が年間1万人程度は増えているといわれています。
症状
B型肝炎は感染してから1~6ヶ月の潜伏期間がありますが、急性肝炎と慢性肝炎では症状の現れ方に違いがあります。
急性肝炎の場合はおもに以下のような症状です。
- 全身の倦怠感
- 食欲不振
- 悪心・嘔吐
- 褐色尿(濃い烏龍茶様)
- 黄疸(白目が黄色くなり、その後皮膚にも出る)
B型急性肝炎は一般的に以上のような症状が見られますが、このような症状がないまま治ってしまう場合もあれば、肝不全という命に関わる劇症肝炎を起こす場合もあります。
一方、B型慢性肝炎の場合は発症しても自覚症状がないか、疲れやすさや食欲不振などの軽い症状のため、感染に気付くことはまずありません。
しかし稀に急性増悪といってB型急性肝炎のような強い症状が出るなど、一過性のB型肝炎を発症する場合があります。
その際は自覚症状の有無に限らず、治癒後には終生免疫を獲得するとされてきました。
最近は、健康上の問題はなくてもウイルスがごくわずかに肝臓内に存在し続けることが分かっています。
このように、急性でも慢性でも、検査をせず症状や発症の有無だけで感染や現状を判断するのは困難であるのがB型肝炎です。
診断方法
B型肝炎に感染しているかどうかは、HBs抗原の有無を血液検査で調べて診断されます。
HBs抗原とは、B型肝炎ウイルスの外殻を形成するたんぱく質のことで、それが検出されれば陽性が確認され、B型肝炎に感染していると診断されます。
陰性の場合は、まだ感染したばかりで陽性化までの期間である極早期の場合を除き、感染していないと考えていいでしょう。
検査
B型肝炎と診断されたら、そのあとにも幾通りもの検査をして、現在の感染状況を調べます。
以下は、HBs抗原検査でB型肝炎であることが確認されたあとに受ける検査です。
検査項目 | 結果 | 分かること |
---|---|---|
HBe抗原 | 陽性:HBVの増殖力が強い | 他人への感染力の強さが分かる |
HBe抗体 | 陽性:HBVの増殖力が低下 | ウイルスの鎮静程度が分かる |
HBc抗体 | 陽性:HBVに感染したことがある ※ワクチン接種では陽性にならない | 感染が初めてか、キャリアだったのかが分かる |
HBs抗体 | 陽性:過去に感染し、治癒したことを示す ※ワクチン接種でも陽性になる | 免疫の獲得が分かる |
HBV-DNA | 血液中のウイルス量を測定 | 量が多いほど肝がん発生率が高くなる |
AST(GOT) ALT(GPT) | 肝機能検査 | 肝炎を発症しているかどうか、または発症している肝炎の程度を調べる |
血清ビリルビン値 | 肝機能検査 | 急性肝炎や肝硬変などでの肝機能の著しい低下を示す黄疸の程度を調べる |
肝生検 | 腹部エコーで組織を採取 | 慢性肝炎か肝硬変かが分かる 慢性肝炎の場合は程度が分かる |
IgM-HBc抗体 | 陽性:B型肝炎に感染したのが最近であることを示す | 感染初期であることが分かる |
IgG-HBc抗体 | 陽性:B型肝炎に感染したのが過去であることを示す | 発症後治癒したことが分かる |
検査項目が多いですが、一刻も早い処置が必要な場合や、治療の方向などを決めるために必要な検査です。
B型肝炎は自然に治る?
B型肝炎が自然治癒するかどうかは、感染の種類によります。
ここでは、B型肝炎は自然に治るのかを紹介します。
急性肝炎の場合
B型急性肝炎を発症すると、自然治癒が期待できます。
一部の人が急性肝炎を発症しますが、その90%は数週間から数ヶ月で自然に回復するのが一般的です。
ウイルスが排除されるのを治療せずに待ちますが、稀に劇症肝炎へ進行するケースがあります。
劇症感染になった場合、抗ウイルス薬の投与から血漿交換・透析、最悪には肝移植を行なわなければならないなど、命が危険に晒される可能性があります。
また急性肝炎から慢性肝炎に移行するケーズが近年散見されます。
「自然治癒するらしい」と楽観せず、早めに医療機関に相談しましょう。
慢性肝炎の場合
B型肝炎の持続感染者(キャリア)はウイルスが体内に半年以上と長く残り続け、完全に排除ができないため、自然治癒は困難です。
B型肝炎に感染した場合、自然免疫によって多くは自覚症状が殆どないまま自然治癒します。また一部は急性肝炎を発症し、やはり自然治癒が可能です。
しかし、免疫が不十分な乳幼児や透析患者、免疫抑制剤を使用中の人などが感染すると、免疫機能がB型肝炎ウイルスを異物と認識できないため、肝炎を発症しないまま持続感染者になってしまいます。
そして持続感染の場合は体内のウイルスが少ないため肝臓へのダメージが進行しませんが、慢性肝炎を発症するリスクがあります。
慢性肝炎を発症すると、ウイルスが継続的な炎症を引き起こし肝機能に少しずつダメージを与えますが、免疫機能はやはりB型肝炎ウイルスを異物と認識できないため、自然治癒には向かいません。
そのうち、肝硬変や肝がんへ進行する危険性がありますが、早期発見できる自覚症状が期待できないため、自然治癒は困難でも、無症状のうちからの定期的な検査が必要です。
治癒の定義
B型肝炎の自然治癒とは、血液中のウイルス量を測定する検査によってB型肝炎ウイルスの遺伝子であるHBV-DNAが検出されない状態になることをいいます。
ウイルスの複製が停止して体内にウイルスがいない状態を指しますが、健康上問題がない状態になってもウイルスのDNAがごく微量に残り続けることが、最近では分かっています。
しかし、発症して獲得した免疫が働くため、通常は肝炎を発症しなくなります。この状態は「既往感染」と呼ばれています。
肝臓にB型肝炎ウイルスのDNAが微量に残っているため、免疫抑制剤や抗がん剤を使用するような治療を行うなど、何かをきっかけに再び肝炎を引き起こす可能性はゼロではありません。
B型肝炎の治癒とは完治することではないため、治癒と診断されたあとも定期的な検査を受けて、変化を見逃さないよう努めなければいけません。
自然治癒と無症候性キャリアの違い
自然治癒した既往感染者と無症候性キャリアの大きな違いは、既往感染者はウイルスの増殖を抑制できていて、無症候性キャリアはウイルスの増殖機能が維持されている点です。
既往感染者の場合、自然治癒したあとは感染したことがない状態とほぼ同じです。
しかしウイルスのDNAが極微量に残っているため、もし再活性化するとしばしば肝炎を起こし、自然治癒以前よりも劇症化率が高くなります。
一方、無症候性キャリアは肝障害などの疾病を患っていないだけで、いつ慢性肝炎を発症してもおかしくない状態の感染者のことを指します。
そして問題は、一過性感染が無症状で気付かないまま治癒するケースがあるため、2者とも似たような状態でありながら、検査をしなければどちらなのかが分からない点です。
こういったことを考えると、感染に気付いていない場合は早めに診断を受けたほうがいいでしょう。
B型肝炎の治療方法
B型急性肝炎の場合、食欲低下や水分不足になれば栄養補給や水分の点滴をするなどを行ないますが、基本的には無治療で自然治癒を待ちます。
では、慢性肝炎の場合はどのような治療方法があるのでしょうか?
ここでは、B型肝炎の治療方法について紹介します。
インターフェロン療法
インターフェロン療法は、インターフェロン製剤を使用する、B型慢性肝炎に対する治療法です。
インターフェロン(IFN)とは、風邪などのウイルスと戦うために人体が産生するたんぱく質で、それを薬として作ったものがインターフェロン製剤です。
人の身体が作り出す量以上で使用するため、抗ウイルス作用や免疫を高める作用があり、B型肝炎ウイルスの活動を抑制します。
筋肉あるいは皮下注射で、インフルエンザにかかったような副作用があります。
薬剤を中止できる可能性があるため、35歳以下など若年者に対しては第一選択になります。
核酸アナログ製剤
核酸アナログ製剤は、ウイルスの増殖を直接阻害する効果のある薬剤です。核酸(DNA)の材料となる物質に構造が似ていることから「核酸アナログ」と呼ばれています。
B型肝炎ウイルスの遺伝子型や患者の年齢などに左右されず、殆どの症例で肝炎を鎮静化できますが、投与中止による再燃率が高く、劇症化を避けるためにも長期投与が避けられません。
インターフェロン製剤と併用したり、劇症化の際に使用したりすることが可能ですが、長期投与で耐性のあるウイルスが出現することがあり、肝炎が重症化する危険性があります。
最新の核酸アナログ製剤は耐性株の出現率が低く、もし出現しても他のアナログ製剤で対抗できることが発見されるなど、安全な使用ができるようになってきています。
また長期間投与が原則の為、挙児希望のある方へは投与できません。
B型肝炎の予防方法
最後に、B型肝炎の予防方法を紹介します。
常識的な生活を送っていれば感染する確率が殆どないはずのB型肝炎ですが、心得ておいた方がいい方法もあるため、参考にしてください。
HBV母子感染予防対策
HBV母子感染予防対策とは、B型肝炎に感染している母親から生まれてくる乳児に、遅くとも48時間以内という早期からワクチンを打つことによる、母子感染の予防法です。
B型肝炎ワクチン(HBワクチン)と高力価HBsヒト免疫グロブリン(HBIG)を組み合わせて行います。母親がHBs抗原検査が陰性の場合は対象外です。
プログラムは以下の2種類です。( )内は省略可能です。
母親がHBe抗原陽性のキャリアの場合
- 48時間以内にHBIG
- HBs抗原検査を行う
- 生後2ヶ月にHBとHBIG
- 生後3ヶ月にHB
- 生後5ヶ月にHB
- 生後6ヶ月にHBs抗原・HBs抗体検査
母親がHBe抗原陰性またはHBe抗体陽性のキャリアの場合
- 48時間以内にHBIG
- 生後2ヶ月にHB(HBIG・HBs抗原検査)
- 生後3ヶ月にHB
- 生後5ヶ月にHB
- 生後6ヶ月にHBs抗原・HBs抗体検査
この方法で感染予防を行なえば、(胎内感染を除いて)感染者である母親から生まれた児の95~98%はキャリア化を防げるとされています。
ワクチン接種
B型肝炎には、定期接種と任意接種のワクチンと、汚染後に打って効果を発揮する製剤があります。
B型肝炎ワクチンの定期接種は0歳児に対するもので、1歳になるまでに3回接種します。
任意接種は定期接種しなかった子どもと母子感染予防対策の対象外の小児と成人が対象で、1ヶ月間隔で2回、そのあと半年以上あけて3回目と、全部で3回の接種で費用は自己負担です。
2016年3月以前に生まれた子どもも接種が可能で、思春期から成人になる過程での感染リスクや発症予防に対応できます。
そして、パートナーや同居家族がキャリアの場合や性風俗勤務の人、輸血や血液製剤を使用する人も任意のワクチン接種の対象です。
他にもHBsヒト免疫グロブリン(HBIG)といって、感染予防を目的として抗体を投与する受動免疫があります。
医療事故ややむを得ない汚染事故の際などの緊急時などが対象で、短期間で代謝により成分が減少しますが1~2ヶ月間ほどは効果を発揮します。
日常でできる予防
B型肝炎は、他人の血液や体液に触れないことで予防できます。具体的には以下です。
- 歯ブラシやカミソリを共用しない
- 他人の血液や体液に触れる際はゴム手袋を着用
- 注射器や針など医療器具を使わない
- よく知らない相手との性交渉ではコンドームを使用
常識的な生活をしていれば感染の危険性はそう高くありません。特に違法行為などは行なわないのが当然です。
医療関係者や他人の血液・体液に触れる可能性のある職種の人は対策として、上述のB型ワクチンなどの接種をおすすめします。
まとめ
B型肝炎ウイルスは感染すると身体から追い出すことができず、自覚症状もないまま知らないうちに他人にうつしてしまう可能性のある、恐ろしい感染症です。
キャリアの自覚がないなど、どの人も保菌している可能性があります。気になる人は、そして一生に一度は検査を受けることをおすすめします。
東長崎駅前内科クリニックは、B型肝炎の検査や治療はもとより、脂肪肝や合併症など、肝臓に関わる病気を診る肝臓内科があります。
当院でも、治療を終えて定期検査のために通っている患者さんが多数います。
「もしかしたらB型肝炎かも」と思ったら、発見から治療後まで、東長崎駅前内科クリニックがしっかりフォローいたします。お気軽にご相談ください。