想い出の患者さん event_note2019.09.06 こんにちは。 「おなかの悩みから解放されることで人生を楽しく過ごせるお手伝いがしたい」 東長崎駅前内科クリニックメンバーの はまだ です。 朝晩は過ごしやすくなってきましたね。 その温度差からか、喉の痛みや熱の症状がある方もちらほら。 半袖にしようか、もう少し長めにしようか。 冷房にしようか、除湿にしようか迷う季節ですが、夏の疲れを乗り切り健やかに過ごしたいですね。 今日は、時折思い出すこと、私のつぶやきです。 忘れられない、むしろ今でも時折、密かに心の中で力をもらっている患者さんがいます。 その中の一人。病棟で働いていた頃の患者さん。 病棟はそこが生活の場だから、いいことも悪いことも共有する時間が長かったなぁと思います。 その分、患者さんとの関わりも密になることが多く。 (仮名)田中さんは、明るく元気なおばちゃん。 いえ、楽しく過ごそうと選んで「好き」を大事にされた本当にすごいおばちゃん。 初めてお会いしたのは、ちょうど長男を出産して復帰した、働く母1年生の頃だったでしょうか。 2週間に1度は熱や咳の保育園の洗礼を受け、今まであまり意識することのなかった帰宅時間に 制限が発生し、どうにもこうにもな状態。 田中さんには、最初、少し厳しいような細かいような、そんな印象を受けたような記憶があります。 そんなある日のこと。 お話していた時に聞こえてきた「はまださん~。保育園から電話です~」という廊下に響く声。 ああ、またか。そう思って「すいません」と言おうとしたとき。 「あら、あなた。お子さんがいるの? それで仕事もして。えらいわね~」 あの頃は、まだ病棟で働く母は少数で、その少数の先輩方に相談しつつの、何もかも手探りの状態でした。 「大丈夫よ。ほら早く行ってあげて」 そう言ってもらったことを覚えています。 それからというもの、何かあるごとに田中さんは声を掛けてきてくれました。 病棟に差し入れを頂いたときは、息子の分もと言ってくださったり、次男の妊娠中も三男の妊娠中も 「お母さんは、立派な仕事をしているからね~」とお腹をなでてくれたりしました。 繰り返しの入院は、本当はそんなに好ましくはないことだけれど、私は田中さんに会えることにいつも 元気をもらっていました。 保険関係の仕事で、ずっと仕事に第一線で歩んでこられた方。 口癖は「私は働く人、働く女性の味方だから」 「働き続けるのって本当に大変。でもいいことあるから。大丈夫よ」 よくそうおっしゃっていたように思います。 最後に会ったのは、エレベーターの中でした。 三男を出産して復帰した私は、復帰後は別の病棟へ配属になりました。 田中さんともお会いすることが出来ないな……と気にかけてはいたのですが、復帰後のバタバタで 頭から薄れかかっていたときのことです。 ちょうど三男が細気管支炎から肺炎を併発して、入院加療が必要になり、病棟で働き、 昼休みに病室に戻り、夜は小さな子供用ベッドで体を丸めて一緒に寝るという、ずっと病院に 缶詰め状態の日々を過ごしていました。 仕事が終わり、急いで当直用のシャワー室でシャワーを浴びて。 髪が濡れたまま、小児病棟へ向かおうとエレベーターに飛び乗ったときのことです。 同じエレベーターに田中さんが乗り合わせていました。 1年ぶりくらいでしょうか。驚きと嬉しさと、そして痩せられたことへの心配と。 エレベータを途中で降りて、少し立ち話をしました。 「久しぶりね~。なんで髪の毛濡れているの? 大丈夫?」 優しさは変わらず、話しかけてくれます。 三男が入院していること。2週間近く自宅にもどっておらず、家族のことも気がかりなこと。 自分に余裕がないこと。母親としてどうなのかなと思うことがあること。 仕事も中途半端になりそうなこと。 仕事は好きだけれど、自分のキャパシティがないことが悔しいこと。 静かに聞いてくれました。濡れた頭を拭き、なでながら。 「大丈夫。大丈夫」 「ギリギリでも余裕がなくても、いっぱいいっぱいでもいいじゃない」 「いつか、そんなこともあったなと思える日がくる。 いいこともそうでないことも、続けてきてよかったと思える日がくる。 いろいろあるわよね~。でも大丈夫。大丈夫。私が言うから大丈夫。 私は働く女性の味方だから」 「ほら。ぼくちゃん待っているんでしょ。早く行ってあげて」 そう言って、笑顔で手を振ってくれました。 それが、私が最後に会った田中さんです。 息子が退院するとき、少し病棟をのぞいてみたけれど、お顔は見えず。 それから、そんなに間を置かず、田中さんの話が耳に入ってきました。 ギリギリまで好きだった旅行を楽しみ、素敵な髪色を楽しみ、そしてたくさんの励ましをくださった 田中さん。 苦しいこと、辛いことは少し笑いに包み、先輩としての厳しさと優しさもあり、 私は看護師として大きなことは出来ず、いつも元気をもらうばかりでした。 今でも、時折思い出します。 働く母1年生がたとえ10年生になっても、ギリギリ感は消えず。 一つ過ぎたら、また一つやってきて。 そんな綱渡りのような日々ですが、そんな時にあの髪の毛を拭いてくれた夜のことを思い出します。 「大丈夫。大丈夫」 そうやって、綱渡りでもなんでもいいから渡り切りたいとそう思います。 そして、そんな日々の中で、田中さんのように好きを見つけ、 好きを大事にしていけるようになりたいな。そう思います。 次回のスタッフブログは、火曜日に更新します。 どうぞお楽しみに。